アスベストは、天然にできた繊維状けい酸塩鉱物で、「せきめん」「いしわた」と呼ばれています。その繊維は極めて細かく、熱や摩擦に強く、丈夫で変化しにくいという性質を持っているため、耐火、断熱、防音などの目的で、建材などに利用されてきました。アスベストは、クリソタイル(白石綿)、クロシドライド(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、トレモライト、アンソフィライト及びアクチノライトの6種類あます。しかし、アスベストは、飛び散ること、吸い込むことにより人体に健康被害を及ぼすことにより、平成18年9月1日から石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有するすべての物の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止となりました。また、労働安全衛生法や大気汚染防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などで予防や飛散防止等が図られています。

アスベストは、肺線維症(じん肺)、悪性中皮腫の原因になるといわれ、肺がんを起こす可能性があることが知られています。アスベストによる健康被害は、アスベストを扱ってから長い年月を経て出てきます。中皮腫は平均35年前後という長い潜伏期間の後発病することが多いとされています。アスベストを吸うことにより発生する疾病としては主に「石綿(アスベスト)肺」「肺がん」「悪性中皮腫」があります。

アスベストによる健康被害と病気について

①石綿(アスベスト)肺

石綿肺は、肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一つです。肺の線維化を起こすものとして、アスベストのほか、粉じん、薬品等多くの原因があげられますが、アスベストのばく露によっておきた肺線維症を特に石綿(アスベスト)肺とよんで区別しています。職業上アスベスト粉塵を10年以上吸入した労働者に起こるといわれており、潜伏期間は15~20年といわれております。アスベスト曝露をやめたあとでも進行することもあります。

②肺がん

アスベストが肺がんを起こすメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、肺細胞に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされています。また、喫煙と深い関係にあることも知られています。アスベストばく露から肺がん発症までに15~40年の潜伏期間があり、ばく露量が多いほど肺がんの発生が多いことが知られています。治療法には外科治療、抗がん剤治療、放射線治療などがあります。

③悪性中皮腫

悪性中皮腫は、肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜等にできる悪性の腫瘍のことをいいます。若い時期にアスベストを吸い込んだ方のほうが悪性中皮腫になりやすく、潜伏期間は20~50年といわれています。治療法には外科治療、抗がん剤治療、放射線治療などがあります。

仕事や自宅周囲の工事等の環境の影響により、アスベストを吸い込んだことで呼吸困難や咳、胸痛などの症状がある方、その他特にご心配な方は呼吸器科を標榜している医療機関に相談されることが推奨されています。アスベスト関連の病気か否かは、胸部X線検査のほか、胸部CT検査、腹部CT検査などにより行いますが、検査では、病気の原因としてアスベストが関連している可能性は示せても、直接の原因かどうかは明確にできないといわれてます。一旦吸い込んだアスベストの一部は異物として痰のなかに混ざり、体外に排出されますが、大量のアスベストを吸い込んだ場合や大きなアスベストは除去されずに肺内に蓄積されます。また、吸入したアスベストの時間と量によって発症の「リスク」が増加します。一般的には、概ね10年以上職業的にばく露を受けた場合に発症の危険性が高まるといわれていますが、どれだけの量を吸ったら発症するかという点については現在不明です。

アスベストによる健康被害事例

①某工業事件

労働者Aが労働先にてアスベストを吸引したことで悪性胸膜中皮腫を患い死亡した事件です。労働者Aは、昭和38年3月、東京都内の高校を卒業し某工業に入社しました。同59年4月に某工業社を退職後、某I社に入社、平成8年8月11日死亡退職となりました。Aは、平成7年11月頃から、胸痛、咳、微熱等の症状が出て痩せ始め、平成8年、国立がんセンター東病院より悪性胸膜中皮腫と診断されています。Aが勤務していた某工業は保温・保冷工事などを、某I社も冷蔵庫およびタンクの保冷工事の設計・施工などをそれぞれ業務内容としていました。Aの遺族は、両社が取り扱っているアスベストを吸入したため、Aは悪性中皮腫に罹患して死亡したとして債務不履行または不法行為による損害賠償を求めたもので、本判決は、某工業の責任を認め約5700万円余の支払いを命じましたが、某I社の責任は認めませんでした。

②高架下建物吹付アスベスト事件

大阪府内の近畿日本鉄道の高架下貸店舗でうどん店を経営していた女性(当時83歳)が、20206月にがんの一種「中皮腫」で死亡していたことが分かった事件です。同じ高架下で中皮腫にかかり死亡したのは、女性で3人目となります。長男は近鉄などに対し、慰謝料など約3600万円の賠償を求めています。長男によると、女性は197015年に高架下の貸店舗でうどん店を経営しており、2階建ての1階を店舗、2階を倉庫や休憩所として使っていましたが、店舗の壁には有害性が強い「青石綿」が吹き付けられ、むき出しだったといいます。女性は1912月に胸膜中皮腫と診断され、206月に死亡しました。この高架下では、文具店長の男性(当時70歳)が胸膜中皮腫にかかり、04年に死亡し、大阪高裁は近鉄の責任を認め、約6000万円の賠償を命じた事例もあります。15年には喫茶店長だった男性(同66歳)が胸膜中皮腫で亡くなっています。遺族は近鉄に損害賠償を申し入れ、金銭的な解決に至っています。

③某ブレーキ工場問題

H市の某ブレーキ工場などでアスベスト作業に従事し健康被害を受けた元従業員と死亡した元従業員の遺族ら11人が国を相手取り約1230万円の損害賠償を求めた訴訟です。当問題については、国と元従業員ら3人の和解がさいたま地裁(大野和明裁判長)で成立しました。和解したのはいずれも某ブレーキ工場の元従業員で70代の男性2人と死亡した男性の妻です。賠償額は大阪泉南アスベスト訴訟の最高裁判決に沿ったもので、1人当たり賠償基準額の半分の550万円に弁護士費用などを加えた額で成立しました。3人はじん肺法に基づく健康管理区分で4段階のうち「管理区分2合併症なし」に該当し、じん肺の所見がない管理区分1に次いで下から2番目の区分で、じん肺の所見が見られ、将来的に健康被害の可能性があるとされます。

アスベストによる健康被害と病気について

アスベストによる被害者の多くは、アスベスト製造工場の粉塵の中で長期間労働した人やその家族、またアスベストを取り扱う工場の近くに在住していた人です。アスベストの製造が禁止された現在の日本ではこの問題は無くなったと言われていますが、禁止以前に建築された古い建造物の中に大量にアスベストが含まれ、将来解体するときアスベスト粉塵を長期間吸う労働者に健康被害が発生するということです。そのため、建築物又は工作物の解体等の作業を行うときは、あらかじめアスベストの使用の有無を調査する必要があります。石綿等の使用の有無を書面調査、目視調査を実施し、それでは明らかとならなかったときには、分析調査を行うか、石綿を含有するものとして取り扱うことになります。