アスベストの粉じんを吸入することにより肺がん、中皮腫等の重篤な健康障害を引き起こすおそれがあるため、平成18年年9月1日からアスベストやアスベストを含む製品等の使用が禁止されました。建築物の解体・改修時には、アスベスト含有建材の使用の有無について設計図書等や目視、分析により事前調査を行うことが石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号)で定められています。解体等工事の受注者又は自主施工者が行う石綿の事前調査は、原則として書面調査及び現地での目視調査を行い、対象建材の石綿含有が不明な場合は分析調査を行います。令和3年4月からは、全ての石綿含有建材の除去等工事で作業計画の作成、作業終了時の確認が義務化されました。令和4年4月からは、事前調査結果の都道府県等への報告が必要となります。(現行においても、石綿有無の事前調査は必要です。)また、令和5年10月からは、建築物の事前調査を行う者の資格要件が義務化されます。(現行においても、国通知により「石綿に関する一定の知見を有し、的確な判断ができる者が行うこと」とされています。)万が一アスベストが見落とされ、解体工事を行うと、アスベストが飛散するおそれが高く、現場の労働者のみならず周辺に住む人々への健康へも被害が及びます。
大気汚染防止法による発注者に対しての義務について
大気汚染防止法により、発注者に対して以下の義務があります。アスベストの事前調査が不徹底なことにより、法に定められている届出対象工事が未届けとなった場合は、届出義務者である発注者が法の罰則の対象となるので注意が必要です。
①解体等工事における発注者は、受注者が行うアスベストの事前調査(費用負担や設計図書等の提供)に協力すること。
②吹付け石綿・石綿を含有する断熱材・同保温材及び同耐火被覆材が使用されている建築物等の解体・改造・補修等作業といった届出対象工事の場合は県などに届出すること。
③施工者に対して施工方法、工期、工事費等について作業基準の遵守を妨げる条件を付さないよう配慮すること。
大気汚染防止法による解体等工事の受注者(元請け業者)又は自主施工者に対しての義務について
大気汚染防止法では、解体等工事の受注者又は自主施工者に対して以下の義務があります。アスベストの事前調査が不徹底なことにより、届出対象工事において、届出に係る作業基準を遵守していないと認める場合は、解体等工事の受注者が法の作業基準適合命令等の対象となります。また、その他に、届出対象工事が未届けとなった場合は、届出義務者である発注者(施主)が罰則の対象となります。
①石綿の事前調査を実施すること。
②事前調査結果を解体等工事の発注者(施主)に対して書面で説明すること。
③事前調査結果を解体等工事現場に掲示すること。
④特定工事(吹付け石綿その他石綿を含有する建築材料が使用されている建築物等の解体・改造・補修等の作業を伴う工事)に該当する場合は、作業基準を遵守すること。
アスベスト含有の事前調査においての留意点
①書面調査
設計図書、施工記録等による書面から、アスベスト含有の可能性がある建材を調べ、使用時期や商品名などからアスベスト含有の有無を判定します。書面調査は、現地調査の効率性を高めるだけでなく、調査対象建築物を理解することにより、石綿建材の把握漏れを防ぐ役割があり、これを省略すべきでないとされています。また、設計図書や竣工図等の書面は石綿等の使用状況に関する情報を網羅しているものではなく、必ずしも建築物の現状を現したものとは限らないことから、書面調査の結果を以て調査を終了せず、アスベスト等の使用状況を網羅的に把握するため、現地調査を行う必要があります。
②現地調査
建築物の事前調査は、建築物の解体や改修作業等を行うことに伴う、石綿等による労働者の健康障害を防止するために行うためのものです。そのため、現地調査は、建築物のうち解体や改修作業等を行う部分について、内装や下地等の内側等、外観からでは直接確認できない部分についても網羅して行わなければなりません。
③アスベストを含有する可能性のある建材及び含有の有無の判断
労働安全衛生法令におけるアスベスト等の対象含有率は、昭和50年に石綿の重量が5%を超えるもの、平成7年に1%を超えるもの、平成18年9月に0.1%を超えるものと規定の含有率は変わってきています。このため、アスベストを含有する可能性のある建材について、平成18年9月以前に記載等された情報においては、「石綿を含有しない」とされていても、アスベストを含有しないものとは扱えません。また、6種類すべてのアスベストを対象にした情報でない場合は、アスベストが含まれていないとの証明とならないことはもちろんのことです。アスベストを含有する可能性のある建材のうち、現場施工のものや表示のない工場生産製品は、一般的に当該材料を特定することは困難であるため、当該材料がアスベストを含有しないと明らかにするには分析が必要となります。
アスベスト調査結果の報告
アスベスト解体業者は、令和4年4月1日以降は、解体部分の床面積が80㎡以上の解体工事、請負金額が100万円以上の改修工事等を行う際にはアスベスト含有建材の有無にかかわらず、元請業者等がアスベスト調査結果を都道府県等へ報告することが義務付けられます。また施主への説明を行うと共に、アスベスト調査の結果は記録を作成して3年間保存することが義務付けられています。
アスベスト調査の記録について
石綿則第3条第1項及び第2項に基づく記録については、石綿含有建材の有無と使用箇所を明確にしなければなりません。その際は、「アスベストを含有しないと判断した建材は、その判断根拠を示す」「作業者へアスベスト含有建材の使用箇所を的確に伝える」「調査の責任分担を明確にする」等を記録として明確に作成する必要があります。また、石綿則第3条に基づく調査の記録は、石綿等による労働者の健康障害を防止するためのものであることから、第3条の調査に関して、解体等の作業を伴わなければ確認の困難であった箇所等について、記録をしておく必要もあります。
解体工事期間中にアスベスト調査結果を掲示
令和3年4月以降には、解体工事を行う前に工事に関わる全ての材料について実施したアスベスト含有の有無についての調査結果を工事現場の見やすい箇所に掲示する必要があります。調査結果がアスベストを含まない場合であっても掲示は必須となります。これらは工事の施主(発注者)ではなく元請業者が行うこととされています。
アスベスト調査による石綿ばく露・飛散防止の措置
現地調査や試料採取など事前調査のための一連の工程は、解体・改修工事全体で見たときに、労働者の石綿ばく露を最小化することを目的に行うものです。そのため、裏面確認等は、できるだけ建材の切断等による取壊しを伴わないよう、照明やコンセントなどの電気設備の取外し等により行うよう努める必要があります。また、試料採取を行ったり、網羅的な調査のために現地調査において切断等による取壊しが必要な場合は、石綿則に基づく呼吸用保護具の着用や湿潤化等の措置を徹底することとされています。その他、試料採取したときは、採取痕から粉じんを再飛散させないよう適切な補修の手段を講じなければなりません。