アスベストとは、天然にできた鉱物繊維で石綿(いしわた)とも呼ばれています。極めて細い繊維でできており、熱や摩擦、酸、アルカリにも強く、丈夫で変化しにくいという性質を持っているため、建材や摩擦材など、様々な工業製品に使用されてきました。しかし、肉眼からは見ることのできない細い繊維であり、飛散すると空気中に浮遊しやすく、吸収されて人の肺胞に沈着しやすい特徴があります。それによって、中皮腫や肺がん等、人体に様々な健康被害を及ぼす物質であることが分かっております。そのため、現在は日本において、製造、輸入、新規の使用はされていません。アスベスト含有建材(アスベストを0.1重量%を超えて含有するもの)は労働安全衛生法施行令により、2006(平成18)年9月から、製造・使用等が全面的に禁止されています。
アスベストの種類について
アスベストには6種類あり、蛇紋石族と角閃石族に大別されます。代表的なものとしては、蛇紋石族の白石綿(クリソタイル)と角閃石族の茶石綿(アモサイト)、青石綿(クロシドライト)があります。
蛇紋石族
クリソタイル(白石綿):クリソタイルは蛇紋石族に属し、蛇紋岩を構成する主要鉱物の 1 つです。蛇紋岩は超塩基性火成岩が蛇紋石化作用を受けてできたものであり、クリソタイルは蛇紋岩中に網状をなしていますが、蛇紋岩の基質にも短繊維状態で存在しています。カナダで生産され、輸出されている唯一の繊維です。ほとんどすべての石綿製品の原料として使用されてきました。世界で使われた石綿の9割以上を占めています。
角閃石族
クロシドライト(青石綿)
リーベック閃石が繊維状に発達したもので、NaとFe2+とFe3+を持ち青色をしているのが特徴的です。吹付け石綿として使用されており、他に石綿セメント高圧管に使用されてきました。
アモサイト(茶石綿)
南アフリカのトランスバール鉱山から産したもので、グリュネ閃石に属しています。吹付け石綿として使用されており、他に各種断熱保温材に使用されてきました。
アンソフィライト石綿
他の石綿やタルク(滑石)、蛭石などの不純物として含まれており、熊本県旧松橋町に鉱山がありました。
トレモライト石綿
透閃石とも呼ばれ角閃石の仲間であり、現在の角閃石族の分類によると、組成中の鉄分とマグネシウム分の相対比率で鉄分が10%以下のものがトレモライトに分類されます。他の石綿やタルク(滑石)、蛭石などの不純物として含まれており、吹付け石綿として一部に使用されていました。
アクチノライト石綿
トレモライト石綿と同類で、透閃石とも呼ばれ角閃石の仲間であり、現在の角閃石族の分類によると、組成中の鉄分とマグネシウム分の相対比率で鉄分が10%(超)~50%までのものがアクチノライトに分類されます。成分の量の差だけでトレモライトとアクチノライトが分類されるため、X線回折法では同じ回折パターンが見られます。そのため、分析の報告書では「トレモライト及びアクチノライト」という表記になります。
アスベストの危険性
アスベストは非常に危険性の高い物質であり、とても細い繊維でできているため、呼吸器官を通って容易に肺へと侵入します。体内に蓄積すると呼吸困難などの身体障害を引き起こし、最悪死に至るケースがあります。現在は、アスベストの使用を禁止しておりますが、過去に石綿は生活のいたるところで使用されてきました。石綿の用途は3000種といわれるほど多く、大きくは石綿工業製品と建材製品に分けられ、その約8割は建材製品です。石綿による健康被害は、石綿鉱山や石綿製品製造工場、断熱作業などで石綿や石綿製品を取り扱う仕事をしていた方や、造船業や車輌製造など石綿を取り扱う現場で働いていた方に多く見られます。また、石綿工場で働く人の作業着を家庭で洗濯するときに、家族が作業着に付いた石綿を吸い込んだり、工場などから飛んでくる石綿を近隣住民が吸い込んだりするなど、仕事以外で石綿にさらされた方の中にも、中皮腫などの石綿による健康被害が現れる場合があります。アスベストの恐ろしさとしては、アスベストを吸い込んですぐに病気が発症するわけではなく、何十年と潜伏した後に発症するところにあります。現在も未だにアスベストを使用した可能性の高い建築物は多数存在しており、その建築物の解体やリニューアル等を行う際に、アスベストの飛散の危険性が高くあります。そのため、アスベストを解体するにあたっては、事前にアスベスト調査を行い、専門的な知識が豊富な業者が対応することがベストです。解体に関わる方々の健康被害はもちろんのこと、近隣に住む方々の健康被害にも繋がってきます。現在は、アスベストに関する法律や資格がいくつかあり、それに対応した業者の対応が必要とされています。
アスベストが原因となる主な病気
石綿肺
肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一つです。職業上アスベスト粉塵を10年以上吸入した労働者に起こるといわれており、潜伏期間は15年~20年といわれています。アスベスト(石綿)ばく露をやめたあとでも進行することもあります。
肺がん
石綿が肺がんを起こすメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、肺細胞に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされています。ばく露から肺がん発症までに15年~40年の潜伏期間があり、ばく露量が多いほど肺がんの発生が多いことが知られています。
悪性中皮腫
肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜等にできる悪性の腫瘍です。若い時期にアスベスト(石綿)を吸い込んだ人のほうが悪性中皮腫になりやすいことが知られています。潜伏期間は20年~50年(およそ40年に発症のピークがあります)といわれています。
びまん性胸膜肥厚
臓側胸膜(肺を覆う膜)の慢性線維性胸膜炎の状態であり、通常は壁側胸膜(胸壁を覆う膜)にも病変が及んで両者が癒着していることがほとんどです。呼吸によって肺が膨らむときに便利なように臓側胸膜と壁側胸膜は本来癒着しておりませんが、良性石綿胸膜炎が発症するとそれに引き続き胸膜が癒着して広範囲に硬くなり、肺がふくらみにくくなり呼吸困難をきたします。
良性石綿胸水
胸水とは胸腔内に体液が貯留することであり、石綿以外の様々な原因によっても生じます。とくに、石綿粉じんを吸入することによって、胸腔内に胸膜炎による滲出液(胸水)が生じる場合を良性石綿胸水と呼びます。胸膜に炎症がおこり、胸膜腔内に滲出液が生じるもので、半数近くは自覚症状が無く、症状がある場合は咳嗽、呼吸困難の頻度が高いといわれています。