大気汚染防止法の一部を改正する法律が2021年(令和3年)4月1日から順次施行され、2022年4月1日以降に着工する、解体・改修工事を対象として、石綿に関する事前調査結果を、労働基準監督署・自治体に報告する制度がはじまりました。建築物等の解体等工事における石綿の飛散を防止するため、全ての石綿含有建材への規制対象の拡大、県への事前調査結果報告の義務付け及び作業基準の徹底のための直接罰の創設等、対策が一層強化されました。
事前調査は、原則としてすべての工事が対象となります。工事規模や請負金額は関係ありません。ただし、下記の条件を満たす工事は、施工業者が前もって労働基準監督署および自治体に、事前調査結果を報告しなければなりません。
・解体部分の床面積が80㎡以上の解体工事
・請負金額が税込100万円以上の改修工事
・請負金額が税込100万円以上の一定の工作物の解体・改修工事
電球交換などの軽作業、道路の補修作業など、一部の作業についてはアスベスト調査が免除されますので、詳しくは、各自治体に確認した方が良いです。
①規制対象の拡大
アスベスト規制対象改正前
・吹付け石綿(レベル1)、石綿含有仕上塗材(レベル1)
・石綿含有断熱材・保温材・耐火被覆材(レベル2)
アスベスト規制対象改正後
・吹付け石綿(レベル1)
・石綿含有断熱材・保温材・耐火被覆材(レベル2)
・石綿含有成形板等(レベル3)
・石綿含有仕上塗材(レベル3)
全ての石綿含有建材が規制対象となり、石綿含有仕上塗材が「レベル1」から「レベル3」の取り扱いに変更されています。
②アスベスト調査結果の作成・報告・保存
改正前
・事前調査結果を発注者へ書面で説明
・事前調査結果を解体工事の場所に掲示
改正後
・事前調査結果を発注者へ書面で説明
・事前調査結果を解体工事の場所に掲示
・事前調査結果の記録の作成を行い、3年間の保存
・事前調査結果の報告を義務化 ※令和4(2022年)年4月1日から適用
事前調査結果の報告が必要となる工事規模は以下の通りで、石綿の有無によらず調査結果の報告が必要となります。
報告対象となる工事
・解体部分の延床面積が80㎡以上の建築物の解体工事
・請負金額が税込100万円以上の建築物の改修工事
・請負金額が税込100万円以上の特定の工作物の解体または改修工事
アスベスト事前調査結果の、記録の作成・保存・報告が義務化されました。建築物や工作物を解体・改造・補修する際は、アスベストの事前調査を行う必要があります。事前調査結果の報告に関しては令和4年(2022年)4月1日に施行されました。
③直接罰の新設
適切な隔離等をせずにアスベストの除去作業を行った際は、直接罰が課せられます。
改正前
除去対象:吹付材(レベル1)、断熱材・保温材・耐火被覆材(レベル2)
・作業基準に違反した際は、適合命令や作業の一時停止命令が出される。
・上記の命令に違反した際は罰則(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)
改正後
除去対象:吹付材(レベル1)、断熱材・保温材・耐火被覆材(レベル2)、成形板(レベル3)
・作業基準に違反した際は、適合命令や作業の一時停止命令が出される。
・上記の命令に違反した際は罰則(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)
アスベスト除去作業は適切な処理をきちんと行わなくてはならず、工事前に「工事計画届」を労働基準監督署長に提出する必要があります。
・違法なアスベスト(レベル1、レベル2)の除去作業をした際は罰則(3カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)
法律で決められた除去方法での施工や、飛散防止対策がしっかり行われていない場合が対象となります。解体工事の際、アスベスト除去を行う場合は、「特定粉じん排出等作業の届出」を都道府県知事へ提出する必要があります。
アスベスト調査及び報告の流れ
①専門家に依頼
アスベストの事前調査は、アスベストに関する知識と、建築物の調査に精通した専門家に依頼する必要があります。建築物アスベスト含有建材調査者、一般社団法人日本アスベスト調査診断協会に登録された者、アスベスト作業主任者のうちアスベスト除去作業の経験を有する者などが対象となります。2023年10月からは、厚生労働省が実施するアスベスト調査の講習を修了していることが追加条件となります。
②書面および現地調査
設計図書や関係者からの聞き取りなどでの書面調査と、目視での現地調査を行う必要があります。場合によっては、現地で採取したサンプルをアスベストの定性分析にかけます。
③報告書の作成
調査結果をもとに報告書を作成し、労働基準監督署や自治体に提出します。報告書は、解体工事開始の14日前までに提出する必要があり、3年間の保存が義務づけられています。また、実際に解体工事を進める際には、工事に関わるすべての建材についてアスベスト含有の有無を掲示しなければなりません。アスベストが一切含まれていない場合でも、掲示をする必要があります。掲示は、施主ではなく元請業者が担当します。
アスベスト除去工事の流れ
届出の提出
①建築物解体等作業届
アスベスト障害予防規則に基づき、石綿含有温材、石綿含有耐火被覆材、石綿含有熱材の解体などでは、工事開始日までに「建築物解体等作業届」を労働基準監督署に提出しなければなりません。提出時には、建築物または工作物の概要に関する図面を添付します。
②特定粉じん排出等作業実施届
大気汚染防止法により、吹付けアスベスト、アスベスト含有断熱材、アスベスト含有耐火覆材、アスベスト含有保温材の建材を除去する場合は、工事開始の14日前までに「特定粉じん排出等作業実施届」を自治体などに届け出る必要があります。
③工事計画届
労働安全衛生法に基づき、耐火・準耐火建築物の吹付けアスベストを除去する場合には、労働基準監督署宛に、工事開始の14日前までに「工事計画届」を提出する必要があります。「工事工程表」や「図面」、「整理台帳」、「技術基準適合比較表」などの書類も必要となるため注意が必要です。
除去工事の実施
①近隣の店舗・住民などへの挨拶
工事実施によるトラブルを防ぐため、あらかじめ近隣の店舗や住民などへ挨拶をすることをお勧めします。アスベストの粉塵による健康被害があるため、挨拶が抜けると後に大きな問題となる可能性があります。現場の担当者だけでなく、施主と一緒に訪問して、工事の進め方や注意点を説明した方が良いです。
②除去工事の実施
アスベスト除去の工事については、一般の工事よりも安全対策に気をつける必要があります。工事の実施時には、工事内容(有害性など)についての掲示物を掲げ、工事関係者以外の立ち入り禁止を徹底する必要があります。作業時には、建物周辺で足場を組み、養生シートで建物を覆います。工事中にアスベストが周辺に飛散しないよう、ブロックするものです。作業員にもマスクや保護衣、作業衣を着用させることが義務づけられています。
③アスベストを廃棄
アスベストは、特別管理産業廃物の「廃石綿等」として処理する必要があります。収集や運搬、処分の方法が定められています。通常の廃棄物とは扱いが異なる点に注意が必要です。
アスベストに関する法律は日々改正されており、規制や罰則も厳しくなっています。アスベストに係る工事を行う際は、専門業者に依頼することをお勧めします。万が一違反した際は懲役または罰金が科せられますので、注意が必要です。