アスベストは天然にできた鉱物で、繊維状のとても細かい物質であることが特徴です。また、石綿(いしわた、せきめん)とも呼ばれています。アスベストは、蛇紋石族と角閃石族に大別され、以下に示す6種類があります。
蛇紋石族
クリソタイル(白石綿)
ほとんどすべての石綿製品の原料として使用されており、世界で使われた石綿の9割以上を占めます。
角閃石族
クロシドライト(青石綿)・アモサイト(茶石綿)
吹付け石綿として使用されており、他に青石綿は石綿セメント高圧管、茶石綿は各種断熱保温材に使われてきました。
アンソフィライト石綿・トレモライト石綿・アクチノライト石綿
他の石綿やタルク(滑石)、蛭石などの不純物として含まれます。アンソフィライト石綿は熊本県旧松橋町に鉱山がありました。また、トレモライト石綿は吹付け石綿として一部に使用されていました。
アスベストは、とても細い繊維で、熱や摩擦、酸、アルカリにも強く、丈夫で変化しにくいという特性を持っていることから、建材(吹き付け材、保温・断熱材、スレート材など)、摩擦材(自動車のブレーキライニングやブレーキパッドなど)、シール断熱材(石綿紡織品、ガスケットなど)といった様々な工業製品に使用されてきました。
しかし、石綿は肺がんや中皮腫を発症する発がん性が問題となり、現在では、原則として製造・使用等が禁止されています。しかし、アスベスト自体が問題なのではなく、飛散することや吸い込むことが問題となるため、労働安全衛生法や大気汚染防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などで予防や飛散防止等が図られています。
アスベストが原因で発症する病気
①石綿(アスベスト)肺
石綿肺は、アスベストを大量に吸い込むことにより、肺が線維化する「じん肺」という病気の一つです。症状として、肺の線維化が徐々に進行し、酸素-炭酸ガスの交換を行う機能が損なわれるため、呼吸困難が生じます。肺の線維化を起こすものとしては石綿以外の鉱物性粉じんをはじめ様々な原因や原因不明も多くありますが、アスベストのばく露によっておきた肺線維症を特に石綿肺とよんで区別しています。
②肺がん
アスベストによる肺がんは、原発性肺がんです。原発性肺がんとは、肺の細胞が変化して発生したがんをいい、転移してできたがんである転移性がんと区別されます。肺がんは、アスベスト以外にも様々な要因で発生するといわれており、喫煙は肺がんの重要な危険因子といわれています。症状は、咳、痰、血痰、胸の痛み、動いたときの息苦しさ、発熱などがありますが、肺がんができた場所や大きさによってはほとんど症状がでないこともあるといわれています。
③悪性中皮腫
中皮とは、肺を包む胸膜や心臓を包む心膜、胃腸や肝臓など腹部臓器を包む腹膜などの膜の表面をおおっている組織です。この中皮から発生した腫瘍が中皮腫で、良性と悪性があります。また、アスベストは、特に胸膜や腹膜において中皮腫を起こしやすいとされています。中皮腫の病態は、良性と悪性で異なります。良性の場合は、他の臓器に転移はしないので、あまり症状は出ません。ただし、良性であっても腫瘍組織が大きくなれば、胸痛、咳、呼吸困難などが出現することがあります。悪性中皮腫の場合、胸膜や腹膜に沿う形で広がっていくため、胸水や腹水がたまり、胸痛、咳、呼吸困難、腹部膨満感などが出現します。そのような症状が出た場合、悪性中皮腫は進行していると考えられます。
アスベストの繊維は、WHOの報告により、肺線維症(じん肺)や悪性中皮腫の原因になるといわれ、肺がんを起こす可能性があることが知られています。アスベストによる健康被害は、アスベストを扱ってから長い年月を経て出てきます。仕事を通してアスベストを取り扱っている方や扱っていた方は、その作業方法にもよりますが、アスベストを扱う機会が多いことになるため、定期的に健康診断を受けた方がいいです。また、労働安全衛生法により、現在仕事でアスベストを取り扱っている方の健康診断は、事業主にその実施義務があります。労働基準監督署の認定を受け、業務上疾病とされると、労災保険で治療ができます。アスベストによる健康被害は、石綿を吸い込んでから30から50年という長い潜伏期間を経て発症します。石綿を吸い込んだ可能性がある方で呼吸困難や咳、胸痛などの症状がある方は専門医療機関に相談をおすすめします。また、過去にアスベストを吸い込んだ可能性のある人は、喫煙により肺がんのリスクが上がるため、禁煙することが重要です。
建設アスベスト給付金制度について
令和3年6月9日に、議員立法により「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立し、令和4年1月19日に完全施行されることとなりました。法の趣旨において、アスベストにさらされる建設業務に従事した労働者等が、石綿を吸入することにより発生する疾病にかかり、精神上の苦痛を受けたことについて、最高裁判決等において国の責任が認められたことに鑑み、被害者の方々へ損害の迅速な賠償を図る旨が述べられています。
対象者
昭和47年10月1日~昭和50年9月30日の間にアスベストの吹付け作業に係る建設業務や、昭和50年10月1日~平成16年9月30日の間に一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務に従事することにより、石綿関連疾病にかかった労働者や、一人親方・中小事業主(家族従事者等を含む)が対象となります。
給付金の主な内容
給付金の支給を希望される方からの請求に基づき、認定審査会において審査を行います。厚生労働大臣は、認定審査会の審査の結果に基づいて、病態区分に応じ、以下の給付金を支給します。
①石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のない者:550万円
②石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のある者:700万円
③石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のない者:800万円
④石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のある者:950万円
⑤中皮腫、肺がん、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、石綿肺管理4、良性石綿胸水である者:1,150万円
⑥上記①および③により死亡した者:1,200万円
⑦上記②および④、⑤により死亡した者:1,300万円
※給付金を支給された後、症状が悪化した方には、請求に基づき、追加給付金(上記における区分の差額分)が支給されます。
※アスベストにさらされる建設業務に従事した期間が一定の期間未満の方、肺がんの方で喫煙の習慣があった方については、給付金等の額がそれぞれ1割減額されます。
給付金等の請求期限
給付金等については、アスベスト関連疾病にかかった旨の医師の診断日又は石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日(アスベスト関連疾病により死亡したときは、死亡日)から20年以内に請求する必要があります。
労災保険について
仕事が原因で石綿の健康被害が生じた場合は、「労働者災害補償保険制度(労災保険制度)」による補償を受けることができます。現在、雇用されている方や過去に雇用されていた方が、石綿にさらされる業務に従事していたことが原因で、肺がんや中皮腫などのアスベストとの関連が認められた病気を発症し、療養や休業、あるいは死亡した場合には、労災保険によって、次のような給付を受けられます。なお、労災保険の給付を受けるには、その病気が、仕事が原因で発症したものであると、労働基準監督署長から認定を受けることが必要です。
①療養補償給付
療養の給付(無償で治療を受けられること)または医療機関で負担した医療費を支給
②休業補償給付
傷病の療養のため、労働することができず賃金を受けられないときの給付
③傷病補償年金
療養開始後1年6か月経っても傷病が治らず、障害の程度が障害等級(1級~3級)に該当するときに支給
④障害補償給付
傷病が治って身体障害が残ったときに、障害の程度に応じて年金(障害等級1級~7級)または一時金(障害等級8級~14級)を支給
⑤介護補償給付
傷病年金または障害年金の対象となる障害により、介護を受けている場合に支給
⑥遺族補償給付および葬祭料
労働者が死亡したときに支給
労災保険の給付を受ける権利は、一定の期間を過ぎると時効によって消滅し、労災保険の給付を受けられなくなります。例えば、療養補償給付は、療養の費用を支出した日の翌日から2年、遺族補償給付は、労働者が亡くなった日の翌日から5年で時効になります。