前回の記事では、土壌汚染調査から対策工事に至るまでの流れを概観しました。土壌調査から対策工事までの工程は、土壌汚染対策法施行規則によって具体的に定められています。その手順をわかりやすくするため、一般的に土壌調査・対策工事を実施する過程は3つのフェーズに分けて説明されます。その3つのフェーズとは、①地歴調査 ②状況調査・詳細調査(表層土壌調査・ボーリング調査)③土壌汚染対策工事です。今回の記事では、フェーズ1の地歴調査の内容や方法、調査にかかる費用について解説いたします。
地歴調査とは
フェーズ1の地歴調査は、資料等調査や土地利用履歴調査とも言われます。地歴調査では、対象となる土地がこれまでどのように使われてきたのかを資料等を用いて把握し、土壌汚染リスクがあるかどうかを調べます。地歴調査の目的は、様々な資料から土地の利用履歴や有害物質の使用履歴を確認し、対象となる土地の土壌汚染が存在する可能性を評価することです。地歴調査は書類上での調査であり、現地の土壌採取や土壌試料の分析等は行われませんが、フェーズ2以降の調査の要否や、全体的な調査・施工計画を立てる上で目安となる重要な調査です。
前回の記事で述べたように、土壌調査には法的に義務付けられている調査と、自主調査があります。有害物質使用特定施設を廃止する場合や、一定以上の規模の土地の形質の変更の際に土壌汚染のおそれがある場合は、土壌汚染調査を実施し、調査結果を都道府県知事に報告することが法律で定められています。自主調査は、不動産売買や不動産評価、不動産の証券化(信託設定)のための事前調査として、土地の正確な価値の把握、ならびに契約成立後のトラブル回避を目的に依頼される場合が多くなっています。地歴調査の結果は、土壌汚染対策法施行規則(第三条の二)の規定に従って、①土壌汚染が存在するおそれがないと認められる土地、②土壌汚染が存在するおそれが少ないと認められる土地、③土壌汚染が存在するおそれがあると認められる土地に分類されます。土壌汚染のリスクがないと判断された場合には、調査はそこで終了しますが、汚染の可能性があると判断された場合には、汚染の程度や範囲、深さ等をより詳しく調べる必要があり、フェーズ2の状況調査・詳細調査に続いていきます。
地歴調査の方法
地歴調査では、対象となる土地の利用履歴を把握するために、一般公表資料、公的届出資料、私的資料等を調べます。具体的には、地形図、住宅地図、行政調査、空中写真に加えて、公図、登記謄本、既往調査結果(土壌関連、地下水関連、ダイオキシン類等)等を資料として用いて、その土地の利用履歴や地質・地下水の特質等を調査します。また、必要に応じて、特定施設の届出状況確認等の役所調査やヒアリング調査、現地踏査が行われることもあります。これらの書類もしくは実地の調査を通じて、対象の土地や周辺地域に特定施設が建てられていた形跡の有無や、有害物質の使用履歴をチェックします。
地歴調査の具体的な方法について、住宅地図を例として説明します。資料調査では、まず対象の土地の住宅地図を集め、年代ごとに記された情報を判読し、土地利用の変遷を調べ、その土地及び周辺地域での特定有害物質を取り扱う恐れのある施設の有無を調査します。住宅地図とは、1棟、1戸ごとの戸別情報(居住者名・建物名・建物の平面形など)を記載している地図帳の総称です。「明細地図」「航空地図」とも呼ばれ、いくつかの地図情報会社によって出版されており、数年ごとに改定されています。なお、住宅地図は出版物であるため、国立国会図書館に所蔵されており、申し込みが必要な場合もありますが、誰でも閲覧や複写をすることができます(1)。また、調べたい地域の最新の住宅地図を、全国のコンビニエンスストアで印刷することができる住宅地図プリントサービスもあります(2)。
ちなみに、住宅地図は昭和30年代以降に作成されたものであり、それよりも過去に遡って地歴を調べたい場合には、公図や地籍図、火災保険特殊地図等を利用します。公図・地籍図とは、市役所、町村役場、登記所が管理する土地登記簿(土地台帳)に付属し、各施設に備え付けられている地図を指します。公図は、明治時代に租税徴収の目的のために作成された図面で、地籍図は国土調査法によって作成された地図のことを言います。これらの地図には一筆(土地取引の基礎単位)ごとの区画形状と地番が記入されており、地図に対応した土地台帳には地目、土地所有者等が記載されています(3)(4)。火災保険特殊地図は、火災保険の保険料率の算定のため、昭和のはじめ頃から30年頃まで都市製図会社よって作成されていた地図です。地番だけが記された簡略なものもありますが、建築物の構造、業種、居住者名まで詳細に記入されたものもあります(5)。これらの資料を活用することで、戦前にまで遡って、その土地の用途の変遷を調べることができます。
専門的な地歴調査の場合、住宅地図や公図、登記簿謄本等の、誰でも簡単に入手ができる一般公表資料に加えて、水質汚濁防止法や下水道法に基づく特定施設設置等の届出資料、危険物貯蔵所等の届出資料、行政への環境関連の提出資料等の届出資料や、過去の土壌調査報告書、MSDS(化学物質安全性データシート:Material Safety Data Sheet)、建物・施設配置図、排水経路図・配管図、ボーリング(地質)柱状図、使用薬品リスト等の私的資料を活用することもあります。資料調査ではわからない点や不審な点があった際には、対象地と周辺地域の現地確認をする現地踏査や、設備や環境担当者へのヒアリング調査が実施されます。地歴調査で活用する資料の種類や数によって、調査に必要な費用は変わってきます。以下では、地歴調査にかかる費用の相場について述べていきます。
地歴調査にかかる費用
前述の通り、地歴調査は、様々な資料から土地の利用履歴や有害物質の使用履歴を確認し、対象となる土地の土壌汚染が存在する可能性を評価することを目的とした書類上での調査です。地歴調査にかかる費用の相場は、一般に10万円~30万円ほどになります。費用は収集する資料や調査項目の数、行政交渉や現地調査の有無によって値段は大きく変動します。地形図や住宅地図など、入手しやすい資料のみを用いた簡易スクリーニングの場合が最も安く、登記簿謄本や空中写真等、用いる資料の数が多くなる場合や、特定施設の届出状況を確認するための役所調査、現地踏査やヒアリング調査等の専門的な調査が必要である場合には費用が上がります。
土壌汚染調査は、土地売買前の自主調査のケースや、工場・施設廃止に伴う汚染調査など、目的によって個々のケースごとに最適な調査計画が異なります。株式会社エコ・テックでは、事前に調査目的やコスト面についてお客様のご要望をお聞きしながら、最適な調査方法をプランニングいたします。はじめのご相談や打ち合わせから、万が一汚染が発見された場合の土壌汚染対策工事の実施まで、当社がトータルに承ります。工事に伴う行政対応や、周辺住民とのトラブル防止対策もサポートいたします。全国(東京・名古屋・大阪・岡山・福岡等)で無料相談・無料見積もりを実施しておりますので、土壌汚染に関するご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
- (1)https://rnavi.ndl.go.jp/chizu/tmp/doc1.pdf
- (2)https://www.zenrin.co.jp/j-print/area.html
- (3)https://www.library.chiyoda.tokyo.jp/32cd148330e13460a5dd3bf54ec0a12c2180f988.pdf
- (4)https://houmukyoku.moj.go.jp/yamagata/page000081.pdf
- (5)https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-601014.php