労働安全衛生法等の法令の規制対象となるアスベストは、現在では製造や使用が禁止されています。しかしアスベストが規制される以前に建てられた建物にはアスベストが含まれており、今後そのような建物の解体が必要となります。アスベストを含む建築物等の解体・改修工事を行う場合には、石綿障害予防規則等の法令に基づき、アスベスト含有の有無の事前調査、労働者に対するアスベストばく露防止措置、作業の記録・保存などを行う必要があります。この記事ではアスベストレベルやレベルごとの除去作業の違いについて説明していきます。
アスベストとは?
石綿(アスベスト)は、天然に産する繊維状けい酸塩鉱物で「せきめん」「いしわた」と呼ばれています。
その繊維が極めて細いため、研磨機、切断機などの施設での使用や飛散しやすい吹付け石綿などの除去等において所要の措置を行わないと石綿が飛散して人が 吸入してしまうおそれがあります。以前はビル等の建築工事において、保温断熱の目的で石綿を吹き付ける作業が行われていましたが、昭和50年に原則禁止さ れました。
その後も、スレート材、ブレーキライニングやブレーキパッド、防音材、断熱材、保温材などで使用されましたが、現在では、原則として製造等が禁止されています。
石綿は、そこにあること自体が直ちに問題なのではなく、飛び散ること、吸い込むことが問題となるため、労働安全衛生法や大気汚染防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などで予防や飛散防止等が図られています。
アスベストのレベルについて
そこでアスベストを含む建造物の解体・改修作業を行う際の「アスベスト粉じんの飛散のしやすさ(発じん性)」において3つのレベル分けがされています。
アスベストのレベルは1から3までの3段階に分けられます。アスベストにおいてはレベル1が最も危険な段階です。通常数値が低い方が危険レベルも低く表記されることが一般的ですが、アスベストにおいてはレベル1が最も危険レベルが高くなっているので、注意が必要です。
アスベストレベルは発塵性によってレベル分けされており、飛散性が高ければそれだけ、解体工事での飛散リスクにつながり近隣への影響も及ぼしやすくなります。
そのため、飛散の危険性にあわせて飛散防止策を講じなければなりません。
レベル1:発じん性が非常に高い
最も危険性が高いレベル1は発じん性が高く、取り扱い建材の種類として代表的なのは「石綿含有吹付け材」です。見た目は綿のように白くモコモコしており、解体する際にこの綿のようなアスベストが飛び広がってしまうので大変危険です。
レベル1に分類される建材は「石綿含有吹付け材」です。石綿含有吹付け材は、アスベストにセメントやバーミキュライト、ロックウールなどを混ぜ、吹付け機で施工したものです。表面は綿状で柔らかく、深さが数cm程度あるのが特徴です。
レベル2:発じん性が高い
2番目に危険性が高く、取り扱い建材の種類は石綿含有保温材、耐火被覆材、断熱材などが挙げられます。これらはレベル1程の飛散は見られませんが、密度が低いため軽く一度崩れると一気に飛び広がる可能性があるため、こちらも危険と言えます。
レベル3:発じん性が比較的低い
3つの中では最も危険度が低いレベル3はアスベストを含む建材を指します。
アスベスト含有建材はアスベストが建材の内部に含まれているので、アスベストレベル1や2と比較するとアスベストが飛散する可能性は低いものの、建材の破損などにより内部からアスベストが飛散する恐れがるので注意が必要です。
アスベストレベルごとの必要書類
レベル |
事前調査結果 |
工事計画届出 |
特定粉じん排出等作業届書 |
事前届出の実施 |
建築物解体等作業届 |
レベル1 |
必要 |
必要 |
必要 |
必要 |
必要 |
レベル2 |
必要 |
必要 |
必要 |
必要 |
必要 |
レベル3 |
必要 |
不要 |
不要 |
必要 |
不要 |
期日 |
工事着工14日前まで |
工事着工14日前まで |
工事着工14日前まで |
工事着工7日前まで |
作業日まで |
届け先 |
所轄労働基準監督署/自治体 |
所轄労働基準監督署 |
自治体 |
自治体 |
所轄労働基準監督署 |
アスベストはそのレベルによって作業の基準や工法が異なります。さらに作業ごとに必要な工事届出が異なります。ただし、下記意外にも条例や工事規模によって各種届出が必要な場合がございます。詳しくは各自治体の相談窓口にご相談ください。
レベル1
・工事前に労働基準監督署に提出する必要がある書類「事前調査結果の届出」「工事計画届」「建物解体等作業届」
・工事前に都道府県庁に提出する必要がある書類「特定粉じん排出等作業届」「建設リサイクル法の事前届」
レベル2
・工事前に労働基準監督署に提出する必要がある書類「事前調査結果の届出」「工事計画届」「建物解体等作業届」
・工事前に都道府県庁に提出する必要がある書類「特定粉じん排出等作業届」「建設リサイクル法の事前届」
レベル3
・工事前に労働基準監督署に提出する必要がある書類「事前調査結果の届出」
・工事前に都道府県庁に提出する必要がある書類「建設リサイクル法の事前届」
各レベルで実施される除去方法
アスベストレベル1・2・3の除去作業
アスベストレベル1・2・3共通で用いられる除去作業の工法があります。
除去工法
アスベスト含有吹き付け材を下地から取り除いていく工法を除去工法と呼びます。
専用の機材を使用して除去していくため、費用は高額になるケースが多いです。
リムーバル工法とも呼ばれるもので、アスベスト含有層を下地から取り除く方法。アスベストを完全に取り除いてしまうため、建物の解体時などの際に、再度、除去する必要もなく、もっとも推奨される工法です。
アスベストレベル1・2の除去作業
アスベストレベル1・2共通で用いられる除去作業には2つの工法があります。
①封じ込め工法
既存のアスベスト含有吹き付け材の上から溶剤を吹きかけることで外側からアスベストが飛散しないように封じ込める工法を封じ込め工法と言います。
除去工法と比較すると、もともとあったアスベストが残ってしまう点が難点で、建物自体を解体する時にアスベストを除去しなければなりません。
②囲い込み工法
アスベスト層部分を板材などのアスベストではない素材のものを取り付けて、完全に覆うことによりアスベストを密封することでアスベストの飛散を防ぐ方法を「囲い込み工法」と呼びます。
「囲い込み工法」も「封じ込め工法」と同様にもともとあったアスベストが残ってしまうのが難点です。
アスベストレベル3の除去作業
剥離工法
薬品でアスベストが含まれている仕上塗材や下地調整材をやわらかくして取り除く方法です。薬品によって湿潤化されるため、散水をする必要がなく、作業後の処理も楽。取り残しがある場合、他の工法との併用が必要。この工法は主にアスベストレベル3の除去作業で用いられることが多いです。
アスベストレベル別の費用相場に関して
アスベストレベル1解体費用相場
アスベストレベル1の解体費用相場は1.5万円~8.5万円です。アスベストレベル1は最も発じん性が高く、建物の柱や梁、天井に石綿とセメントの合剤の「アスベスト含有吹付け材」が吹き付けられていることが多く、アスベスト濃度と飛散性の両方が高いので非常に注意が必要です。「アスベスト含有吹付け材」が吹き付けられているため、処理免責が広くなる傾向にあるため、除去の作業費用は高額になりやすいです。
アスベストレベル2の解体費用相場
アスベストレベル2の解体費用は、1㎡あたり1万円~6万円が目安です。アスベストレベル2の取り扱い建材の種類は石綿含有保温材、耐火被覆材、断熱材などが挙げられます。
アスベストレベル2も飛散性とアスベスト濃度が高く、解体工事には注意が必要です。
アスベストレベル3の解体費用相場
アスベストレベル3の解体費用の目安は0.3万円/㎡です。アスベストレベル3の解体作業はアスベストレベル1や2と比較するとアスベストの飛散リスクが低いため、解体費用は低くなります。
アスベスト解体工事は専門的な知識と技術が必要です
アスベストは人体に有害であり、取扱いには十分な注意が必要です。アスベスト解体工事を請け負う業者は「アスベストの有害性」「粉じんの発散防止」「保護具の使用方法」など必要な講習を受ける義務があります。解体業者に工事を依頼する際は、アスベスト除去工事の経験と実績が豊富な業者を選ぶことが大切です。また、補助金の活用も視野に地方公共団体の補助金制度に関しても確認しておきましょう。