アスベスト関連の法改正により年々規制が厳しくなっています。アスベストが見落とされそのまま工事が行われるとアスベストが飛散するおそれがあり、工事関係者や周辺住民への健康被害が懸念されます。それをより一層阻止すべく直近では2021年4月1日に大気汚染防止法が改正され特定建設材料に該当する建築材料の項目に含まれる対象物が増えアスベストに関しての規制がより厳しくなり、2022年4月1日以降の工事よりアスベスト「事前調査結果の報告」が義務化されました。事前調査とは、建築物・工作物・船舶の解体・改修工事を行う際に石綿含有建材の有無について調査することを示します。書面調査、現地での目視調査、両調査においてアスベストが含有されているか明らかにならなかった場合は分析調査を行います。2023年10月からは「事前調査結果の報告」を行うものは資格が必要となり更に規制が増えることが分かっています。
特定建設材料に該当する建築材料
大気汚染防止法により、解体等工事の元請負業者又は自主施工者は、建築物又は工作物の解体等を行うときはあらかじめ特定建設材料の使用の有無を調査することなどが義務づけられています。特定建設材料とは、吹付け石綿、石綿を含有する断熱材、保温材及び耐火被覆材、石綿含有成型板等、石綿含有仕上塗材のことを示します。
改正前は、石綿含有仕上塗材は規制対象ではありませんでしたが、改正後に追加されすべての石綿含有建材が対象になりました。(1)
特定建築材料の区分 |
建築材料の具体例 |
吹付け石綿 |
①吹付け石綿、②石綿含有吹付けロックウール(乾式・湿式)、③石綿含有ひる石吹付け材、④石綿含有パーライト吹付け材 |
石綿を含有する断熱材 |
① 屋根用折板裏断熱材、②煙突用断熱材 |
石綿を含有する保温材 |
① 石綿保温材、②石綿含有けいそう土保温材、③石綿含有パーライト保温材、④石綿含有けい酸カルシウム保温材、⑤石綿含有水練り保温材 |
石綿を含有する耐火被覆材 |
① 石綿含有耐火被覆板、②石綿含有けい酸カルシウム板第2種 |
石綿を含有する仕上塗材 |
① 石綿含有建築用仕上塗材 |
石綿含有成形板等 |
① 石綿含有成形板、②石綿含有セメント管、③押出成形品 |
特定建設材料に該当する建築材料の例
(www.env.go.jp/air/asbestos/litter_ctrl/)より
「事前調査結果の報告」が必要な工事・事前調査の流れ
アスベスト「事前調査結果の報告」が義務化されましたが、建物等を解体し、改造し、または補修する作業を伴う建設工事の元請負業者は石綿の使用の有無を調査した結果を都道府県又は大防法政令市に報告する必要があります。
事前調査結果の報告が必要な工事は、
①建築物を解体する作業を伴う建設工事であって、当該作業の対象となる床面積の合計が80㎡以上であるもの
②建築物を改造し、又は補修する作業を伴う建設工事であって、当該作業の請負代金の合計額が100万円以上であるもの
③工作物を解体し、改造し、又は補修する作業を伴う建設工事であって、当該作業の請負代金の合計金が100万円以上であるもの
とされています。
事前調査の流れは、
- ①書面調査→②現地での目視調査→③分析調査により行います。
①書面調査では、図面などの書面や聞き取りから情報をできる限り入手しアスベストの有無に関する情報を読み取ります。調査対象建築物に係わる情報を理解・把握することにより調査の質を高める重要な工程です。
②現地での目視調査では、現地で内装のほか各部屋・各部位等外観からでは直接確認できない部分を含め書面調査との相違を確認します。もし書面調査との相違があった場合は、現地での目視調査の結果が優先されます。
③分析調査は、書面調査及び現地での目視調査でアスベストが使用されているか明らかにならなかった場合、同一材料ごとに代表試材を採取、分析しアスベストが使用されているか判断します。(2)ただし、アスベストが含有されているものとみなして、法令に基づく石綿飛散防止措置等を講ずる場合は、分析による調査を実施しなくても良いとされています。(3)
「事前調査結果の報告」を行うタイミング・報告義務者について
「事前調査結果の報告」は、対象となる工事の開始前にあらかじめ報告を行う必要があります。遅くとも工事に着手する前に報告する必要があります。
「事前調査結果の報告」を行う報告者は、解体・改修工事を請け負った元請事業者が行わなければなりません。
また、事前調査を行うものは元請事業者から業務を請け負った事業者が実施しても問題ありませんが、事前調査結果の報告、保存等は元請負業者が実施する必要があります。複数の事業者が工事に関わる場合も元請負業者が関係請負人の分もまとめて報告する義務があります。(3)
2023年10月から資格者による事前調査の義務付け
2022年現在、「事前調査結果の報告」は元請負業者等が行えますが、2023年10月から「事前調査結果の報告」は建物物石綿含有建材調査者などの一定要件を満たす資格者が行うことが義務付けられます。
事前調査を行うことができる者は、
①特定建築物石綿含有建材調査者(特定調査者)
②一般建築物石綿含有建材調査者(一般調査者)
③一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て等調査者)
④令和5年9月30日以前に(一社)日本アスベスト調査診断協会に登録され事前調査を行う時点においても引き続き登録されている者。
とされています。事業者が計画的に資格者の育成を行うことが出来るよう「事前調査結果の報告」義務化以降1年ほど期間があいているため、事業者はこの間に資格者を育成するのが好ましいと言えます。(4)
「事前調査結果の報告」方法・報告事項
「事前調査結果の報告」は、原則として石綿事前調査結果報告システム(www.ishiwata-houkoku.mhlw.go.jp/shinsei/)よりオンライン申請で行います。
オンライン申請でのメリットは、行政機関の開庁日や開庁時間にかかわらずいつでも報告を行えること、1回の操作で大気汚染防止法に基づく都道府県等への報告と労働基準監督署への報告を同時に行えるといった点があり、更に複数の現場の報告もまとめて行うことが出来るので活用しない手はありません。
オンライン申請を行った「事前調査結果の報告」内容は、
・事前調査結果報告(労働安全衛生法(石綿障害予防規則))
・事前調査結果報告(大気汚染防止法)
の2点をExcelまたはCSV形式でダウンロードすることが出来ます。
なお、オンライン申請が使用できない等やむを得ない場合は書面での報告も可能ですが、その場合は都道府県等及び労働基準監督署にそれぞれ提出する必要があります。
その他の石綿含有建材の除去等の工事における計画届等については従来どおり、労働基準監督署及び自治体窓口にて所定の書類を提出しなければなりません。(3)
「事前調査結果の報告」事項は下記のとおりです。
・解体等工事の発注者及び元請負業者又は自主施工者の氏名又は名称及び住所、並びに法人にあってはその代表者の氏名
・解体等工事の場所
・解体等工事の名称及び概要
・解体等工事に係わる建築物等の設置の工事に着手した年月日
・解体等工事に係わる建築物等の概要
・解体工事の期間
・事前調査を終了した年月日
・解体等工事に係わる建築物等の部分における建築材料の種類
・建築物を解体する作業を伴う建設工事の場合は、当該作業の対象となる床面積の合計
・建築物を改造し、又は補修する作業を伴う建設工事の場合は、当該作業の請負代金の合計
・工作物を解体し、改造し、又は補修する作業を伴う建設工事の場合は、当該作業の請負代金の合計
大気汚染防止法の一部改正について(アスベスト)令和3年4月1日~
(www.city.funabashi.lg.jp/jigyou/haikibutsu/006/04/p089760.html)より
「事前調査結果の報告」説明書面の保管義務
石綿障害予防規則及び大気汚染防止法に基づき、事前調査の結果の記録を3年間保管する義務があります。「事前調査結果の報告」を石綿事前調査結果報告システムより申請し保存されている内容は、簡易的な情報しか保存されないため報告資料の保存義務を果たしていることには言い切れないため別途記録を保存する必要があります。(3)
「事前調査結果の報告」を行わなかった場合
「事前調査結果の報告」は法令に基づき事業者に課せられた義務となります。報告を行わず工事を行った場合、関係行政機関から法令違反の指摘・指導又は労働安全衛生法及び大気汚染防止法に基づく罰則(大気汚染防止法35条4項により30万円以下の罰金)が科せられる場合があります。(3)
(1)大気環境中へのアスベスト飛散防止対策について | 環境省
(env.go.jp/air/asbestos/litter_ctrl/)
(2)(石綿)事前調査結果の報告について| 環境省
(www.env.go.jp/air/asbestos/post_87.html)
(3)石綿事前調査結果報告システムFAQ| 環境省
(www.ishiwata-houkoku.mhlw.go.jp/shinsei/faq)
(4)建築物等の解体等業者、事前調査を行う事業者の皆様へ(PDF) | 環境省
(env.go.jp/air/air/asbestos/index6/%E2%97%8B20210802jigyousya-chousa-kekka.pdf)
参考URL
・石綿総合情報ポータルサイト | 厚生労働省
・付録Ⅰ事前調査の方法 | 環境省(PDF)