建築物等の解体・改修工事を行う場合には、石綿障害予防規則等の法令に基づき、アスベスト含有の有無の事前調査、労働者に対するアスベストばく露防止措置、作業の記録・保存などを行う必要があります。

事前調査とは、書面調査と目視調査の2つがあり、工事前に建築物等に使用されている建材の石綿含有の有無を調査することをいいます。調査は石綿含有無しの証明を行うことから始まり、その証明ができない場合は分析調査を行うか、石綿含有とみなすことが基本となります。建築基準法など各種法律に基づき施工された石綿含有建材以外にも、改修・改造・補修などにより、想定できないような場所に石綿が使用されている場合があります。建材等の使用箇所、種類等を網羅的に把握し的確な判断を行うためには、見落とさないよう注意する必要があります。

また、労働者に対するばく露防止措置として、「石綿(アスベスト)等を切断等する際の湿潤化」「呼吸用保護具・保護衣等の使用」「レベル12建材の除去等を行う際の負圧隔離」「労働者への特別教育」などの措置が必要となります。

作業の記録・保存については、事前調査結果の掲示や石綿除去作業中の状況などを写真や動画により記録し、3年間保存しなければなりません。また、労働者ごとに、石綿の取扱い作業に従事した期間、従事した作業の内容、保護具の使用状況などを記録し、40年間保存する必要があります。

上記以外にも、法令に基づき措置を行う必要があります。

書面調査

書面調査とは、事前調査の第1段階は書面による調査のことをいいます。書面調査では、設計図面などの書面や発注者や施設管理者、工事業者の関係者等の聞き取りから情報をできる限り入手し、それらの情報からできる限り多く、石綿の使用の有無に関係する情報を読み取ります。それにより、現地での目視による調査を効率的かつ効果的に実施できるように準備を行い、得られた情報を参照しやすいよう整理します。書面調査は、調査対象建築物に係る情報を理解・把握することにより、現地での目視調査の効率性を高めるとともに、石綿含有建材の把握漏れ防止につながるなど、調査の質を高める重要な工程となります。これらの質と効率を高めるには、建築や建材などの知識がとても重要となります。

入手できた書面に応じた現地での目視調査の準備(計画)

どこまで図面が残っているかによって目視調査の準備が異なってきます。図面に動線計画を記入しておくことにより目視調査の時に調査漏れの防止につながります。また、調査結果の記録として図面を用いることにより、石綿含有建材の使用箇所が分かりやすく作業者に伝わるため、図面があることが望ましいです。具体的には、入手できた図面によって下記の対応が考えられます。

①図面が全くない場合
目視調査までに、フロアマップなどから略図を作成しておき、ヒアリング時に現地の概略を確認する。目視調査で階ごとの部屋数を確認するとともに、変更されていた場合はメモ書きで残す。

②図面が一部のみの場合
不足分は目視調査で略図を作成し補足する。

③図面がほぼ揃っている場合
図面と建築物の構造や間取り、使用している建材の整合性を確認する。

現地での目視調査に準備すべき資料

設計図書のコピーなどを現地に持ち込むことは再確認のため、重要なことと考えられます。しかし、特に原図のサイズはA1またはA2の場合がほとんどであり、現地では大きすぎて使いづらいです。また、解体時の事前調査は電気が不通であることが多く、原図の縮小コピーでは文字が読みにくくなり、判読を誤りかねません。そのため、以下のように目視調査が適切かつスムーズに実施できるようにすることが必要です。

・設計図書のコピーの建材名等の表記について、見える大きさに手書きで記載しておく
・書面調査情報を目視調査用の資料に整理しておく
・原図の写真や整理票をタブレットなどに保存しておく

目視調査

目視調査とは、書面調査に基づき実際に現地でアスベスト含有を目視で調査することです。設計図書や竣工図等の書面は石綿含有建材の使用状況に関する情報を網羅しているものではなく、また、必ずしも建築物の現状を現したものとは限らないことから、書面調査の結果を以て調査を終了せず、石綿の使用状況を網羅的に把握するため、原則として現地で目視調査を行うことが必要となります。例えば、仕様を満たすため現場判断で設計図書と異なる施工をした場合や、設計図書には残っていない改修が行われている場合があり、書面調査はあくまで下調べに過ぎず、相違があれば、現地での目視調査の結果が優先となります。

書面と現地で相違がある例

・RC造の最上階スラブ下に結露防止等の断熱のため発泡系断熱材のコンクリート打ち込みを行うことがあるが、これが石綿含有吹付けロックウールなどに変更されていないか等を確認する。

・増築、改修、改造などによる間取りの変更、ボードの貼り替え等がないか確認する。

調査対象の留意点

・耐震補強工事において、梁、柱を利用して耐震補強を行う場合は、梁や柱の周辺の吹付け材や耐火被覆板等の石綿について部分除去が必要となる可能性があるため、当該施工箇所周辺について調査を行う。

・天井裏の吹付け材を除去せず、天井板等の取替えのみの場合であっても、吹付け材が劣化、脱落して天井板等に堆積している場合においては、堆積している吹付け材の石綿含有の有無について確認する必要がある。

・改修工事では、改修の対象となっていなくても、工事に伴い石綿が飛散するおそれのある建材を適切に調査の対象にする。例えば、建築用仕上塗材を改修する際に、劣化した仕上塗材層だけでなく、下地調整塗材層までも削り取ることによって粉じんが飛散するおそれがある場合には、下地調整塗材層についても別途調査を行う。

応急措置

現地での目視調査において確認された吹付け石綿等で、露出している部分が劣化しており、かつ、人の出入りがある場所の場合は、使用者・利用者がばく露する危険性があるため、速やかに発注者等に劣化状況を連絡して立入禁止措置を含め対策措置の検討を速やかに講じてもらうようにする必要があります。目視により劣化状況の確認として、毛羽立ち、繊維の崩れ、垂れ下がり、浮きはがれ、局部的損傷、欠損、層の損傷、欠損等を確認します。

石綿含有の有無の判断

調査対象の建築物のアスベスト含有の判断については、現地での目視調査を踏まえて判断します。判断は、読み取った建材情報と各種情報との照合による判断、分析による判定、石綿含有みなしと取り扱うことにより行います。石綿含有とみなす場合は、吹付け材や保温材等を作業基準のことなる成形板等や仕上塗材と扱わないように注意が必要です。石綿含有とみなした場合は、当該解体等工事は石綿含有建材の除去等に該当することはもちろん、当該建材が廃棄物となった際に廃石綿等又は石綿含有産業(一般)廃棄物として扱うことになります。

建築物解体時におけるアスベストの事前調査において、これまでは資格は必須ではありませんでしたが、大気汚染防止法の一部を改正する法律(令和265日公布)により令和5101日以降に解体等作業を行う際は、資格者による事前調査が義務化されます。

事前調査を行うにあたって必要な資格

①特定建築物石綿含有建材調査者(特定調査者)
②一般建築物石綿含有建材調査者(一般調査者)
③一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て調査者)
④令和5930日以前に(一社)日本アスベスト調査診断協会に登録されている者