環境問題の一つとして挙げられる土壌汚染。土壌汚染には人間により生じた汚染、自然由来で生じた汚染の2種類あります。
土壌汚染について、土壌汚染対策法の施行背景と土壌の特定有害物質による汚染から私たちの健康を維持し環境保全する際に使用される土壌汚染対策法の基準値の一覧を掲載いたします。
土壌汚染とは
土壌は私たち人間を含め地中にいる生き物が生活する場であり、土壌に含まれる水分や養分が私たちの食の元となる農作物を育てています。そのため土壌は私たち人間を含んだ生き物が生きていく上でなくてはならないものです。
土壌汚染とは、土壌が人間にとって有害な物質により汚染された状態のことをいいます。原因としては工場の操業に伴い原料として用いる有害な物質を不適切に取り扱ってしまったり、有害な物質を含む液体を地下に染み込ませてしまったりすることなどが考えられます。土壌汚染の中には人間の活動に伴って生じた汚染だけでなく、自然由来で汚染されているものも含まれます。 (1)
土壌汚染対策法とは
土壌汚染対策法とは、土地の汚染を見つけるための調査や、汚染が見つかったときにその汚染により私たちに悪い影響が生じないように土壌汚染のある土地の適切な管理の仕方について定める、いわば健康を保護することを目的とされた法律です。
平成14年に土壌汚染対策法が成立しました。課題として上がっているものを解決するために、
①法律に基づかない土壌汚染の発見の増加→調査のきっかけを増やすことで解決させる
②汚染土壌を掘り出す掘削除去に偏重→健康リスクの考え方を理解してもらうことで解決させる
③汚染土壌の不適正処理→汚染土壌をきちんと処理してもらうことで解決させる
これらを実施することを目的として平成21年4月に土壌汚染対策法の改正法が成立され平成22年4月から改正法が施行されました。
その後も施行状況の見直し検討が行われ平成29年5月19日に土壌汚染対策法の一部を改正する法律が公布され第1段階が平成30年4月1日に施行され第2段階は平成31年4月1日に施行されました。(1)
毎年のように改正され最新の改正は令和4年7月に土壌汚染対策法施行規則の一部を改正する省令施行・汚染土壌処理業に関する省令の一部を改正する省令施行が施行されました。
土壌汚染のリスク
土壌の汚染があってもすぐ私たちの健康に影響があるわけではなく、土壌汚染対策法では、土壌汚染による健康リスクを以下の2つの場合に分けて考えています。
①地下水等経由の摂取リスク
土壌に含まれる有害物質が地下水を溶け出して、その有害物質を含んだ地下水を口にすることによるリスク
例:土壌汚染が存在する土地の周辺で、地下水を飲むための井戸や蛇口が存在する場合
②直接摂取リスク
土壌に含まれる有害物質を口や肌などから直接摂取することによるリスク
例;子どもが砂場遊びをしているときに手についた土壌を口にする、風で飛び散った土壌が直接口に入ってしまう場合
土壌汚染対策法はこれらの健康リスクをきちんと管理するために作られました。同法では、①地下水等経由の摂取リスクの観点からすべての特定有害物質について土壌溶出量基準が、②直接摂取リスクの観点から特定有害物質のうち9物質について土壌含有量基準が設定されています。
土壌汚染に関する問題とは、土壌汚染が存在すること自体ではなく、土壌に含まれる有害な物質が私たちの体の中に入ってしまう経路(摂取経路)が存在していることです。この経路を遮断するような対策を取れば有害な物質は私たちの中に入ってくることはなく、土壌汚染による健康リスクを減らすことができます。つまり土壌汚染があったとしても、摂取経路が遮断されきちんと健康リスクの管理ができていれば私たちの健康に何も問題はありません。(2)
土壌汚染対策法の基準値について
土壌の特定有害物質による汚染から私たちの健康を維持し環境保全する必要があります。
土壌汚染対策法基準は、特定有害物質による土壌汚染等の有無を判断する基準であり、土壌溶出量基準、土壌含有量基準、地下水基準の3つからなっています。 (3)
特定有害物質とは土壌や地下水に含まれることが原因で人の健康に被害を生ずるおそれがある有害物質として土壌汚染対策法施行令で定めた26物質のことです。
第一種特定有害物質(揮発性有機化合物)、第二種特定有害物質(貴金属等)及び第三種特定有害物質(農薬等)があり、各物質ごとに土壌溶出量基準や土壌含有量基準等の基準値が設定されています。(1)
くり返しになりますが、①地下水摂取などによるリスクからは土壌溶出量基準が、②直接摂取によるリスクからは土壌含有量基準が定められています。
土壌溶出量基準及び地下水基準は、土壌に含まれる特定有害物質が溶け出し、地下水等から飲料水にともなって間接摂取して問題ないレベルとしての基準です。
土壌含有量基準は、土壌に含まれる特定有害物質を経口又は皮膚より直接接種しても問題ないレベルとしての基準です。(3)
土壌含有量基準については、すべての特定有害物質に設定されていますが、土壌含有量基準については、特定有害物質のうち貴金属を中心とする9物質についてのみ定められています。(1)
土壌汚染対策法の基準値一覧
土壌汚染対策法の基準値一覧を掲載いたします。
土壌溶出量基準は、土壌に水を加えた場合に溶出する特定有害物質の量に関する基準で、1リットル中のミリグラム(mg/l)で表します。
土壌含有量基準は、土壌に含まれる特定有害物質の量に関する基準で、1キログラム中のミリグラム(mg/kg)で表します。
地下水基準は、地下水に含まれる特定有害物質の量に関する基準で、1リットル中のミリグラム(mg/l)で表します。(3)
■第一種特定有害物質(揮発性有機化合物)
第一種特定有害物質は、土壌含有量基準がないため「-」で表しています。
特定有害物質の種類 |
土壌溶出量基準 |
土壌含有量基準 |
クロロエチレン |
検液1Lにつき0.002mg以下であること |
- |
四塩化炭素 |
検液1Lにつき0.002mg以下であること |
- |
1,2-ジクロロエタン |
検液1Lにつき0.004mg以下であること |
- |
1,1-ジクロロエチレン |
検液1Lにつき0.1mg以下であること |
- |
1,2-ジクロロエチレン |
検液1Lにつき0.004mg以下であること |
- |
1,3-ジクロロプロペン |
検液1Lにつき0.002mg以下であること |
- |
ジクロロメタン |
検液1Lにつき0.002mg以下であること |
- |
テトラクロロエチレン |
検液1Lにつき0.01mg以下であること |
- |
1,1,1-トリクロロエタン |
検液1Lにつき1mg以下であること |
- |
1,1,2-トリクロロエタン |
検液1Lにつき0.006mg以下であること |
- |
トリクロロエチレン |
検液1Lにつき0.01mg以下であること |
- |
ベンゼン |
検液1Lにつき0.01mg以下であること |
- |
■第二種特定有害物質(貴金属等)
特定有害物質の種類 |
土壌溶出量基準 |
土壌含有量基準 |
カドミウム及びその化合物 |
検液1Lにつきカドミウム0.003mg以下であること |
土壌1kgにつきカドミウム45mg以下であること |
六価クロム化合物 |
検液1Lにつき六価クロム0.05mg以下であること |
土壌1kgにつき六価クロム250mg以下であること |
シアン化合物 |
検液中にシアンが検出されないこと |
土壌1kgにつき遊離シアン50mg以下であること |
水銀及びその化合物 |
検液1Lにつき水銀0.0005mg以下であり、検液中にアルキル水銀が検出されないこと |
土壌1kgにつき水銀15mg以下であること |
セレン及びその化合物 |
検液1Lにつきセレン0.01mg以下であること |
土壌1kgにつきセレン150mg以下であること |
鉛及びその化合物 |
検液1Lにつき鉛0.01mg以下であること |
土壌1kgにつき鉛150mg以下であること |
砒素及びその化合物 |
検液1Lにつき砒素0.01mg以下であること |
土壌1kgにつき砒素150mg以下であること |
ふっ素及びその化合物 |
検液1Lにつきふっ素0.8mg以下であること |
土壌1kgにつきふっ素4,000mg以下であること |
ほう素及びその化合物 |
検液1Lにつきほう素1mg以下であること |
土壌1kgにつきほう素4,000mg以下であること |
■第三種特定有害物質(農薬等/農薬+PCB)
第三種特定有害物質は、土壌含有量基準がないため「-」で表しています。
特定有害物質の種類 |
土壌溶出量基準 |
土壌含有量基準 |
シマジン |
検液1Lにつき0.003mg以下であること |
- |
チオベンカルブ |
検液1Lにつき0.02mg以下であること |
- |
チウラム |
検液1Lにつき0.006mg以下であること |
- |
ポリ塩化ビフェニル(PCB) |
検液中に検出されないこと |
- |
有機りん化合物 |
検液中に検出されないこと |
- |
パンフレット「土壌汚染対策法のしくみ」| 環境省 (https://www.env.go.jp/water/dojo/pamph_law-scheme/index.html)より
最後に
土壌汚染は調査をしなければ汚染されているか否か判断が難しい場合があります。土壌汚染対策法基準を超えた土壌汚染が見つかった場合には、有害物質等取扱事業者や土地改変者が土壌汚染等対策指針に従って適切な措置を講ずることとなります。
株式会社エコ・テックの土壌汚染対策工事について
株式会社エコ・テックでは、調査・分析だけでなく対策方法のプランニングや土地の活用方法のご提案まで、土壌汚染の専門家として様々なアドバイスを行っています。土壌汚染にまつわる一連の問題解決に向け、調査から浄化、リサイクルまで、トータルで承ります。全国(東京・名古屋・大阪・岡山・福岡等)で、無料相談・無料見積もりを実施しておりますので土壌汚染に関するご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
(1)パンフレット「土壌汚染対策法のしくみ」| 環境省
(https://www.env.go.jp/water/dojo/pamph_law-scheme/index.html)
(2)土壌汚染対策法|公共財団法人日本環境協会
(https://www.jeas.or.jp/dojo/law/outline.html)
(3)土壌汚染対策基準|愛知県
(https://www.pref.aichi.jp/kankyo/kansei-ka/houreii/jyorei-1/rinku/d-kijyun.html)
参考URL
・土壌汚染対策法について(法律、政令、省令、告知、通知)| 環境省 (https://www.env.go.jp/water/dojo/law/kaisei2009.html)
・パンフレット「土壌汚染対策法のしくみ」| 環境省 (https://www.env.go.jp/water/dojo/pamph_law-scheme/index.html)
・土壌汚染対策法の対象物質と指定基準|岐阜市(https://www.city.gifu.lg.jp/kurashi/kankyo/1003103/1003131/1003134.html)
・土壌汚染対策法|公共財団法人日本環境協会(https://www.jeas.or.jp/dojo/law/outline.html)